パナソニックの冷蔵庫とインドネシア~戸川利郎

日本企業は海外戦略の転換を迫られています。成長を続けるには、得意としていた富裕層向け高級品に加え、新興国の中間所得層の開拓にも乗り出す必要がありそうです。

中国、インド、韓国などアジア11か国で、世帯の可処分所得が年5000~3万5000ドル(約47万~329万円)の人口は、2008年には8・8億人でした。1990年の1・4億人から6倍に増えており、経済発展にともない今後も増加が見込まれます。日本企業はこれまで、中国や韓国メーカーとの安値競争に巻き込まれるのを避け、高級品に絞った商品投入で利益を確保する戦略をとってきました。誰にもまねできない技術で日本が圧倒した時代なら正しかった成功モデルも、技術の差が小さくなれば通用しなくなります。

液晶やプラズマパネルを使った薄型テレビはかつて日本メーカーの独壇場でしたが、今や世界市場の占有率首位は4年連続で韓国サムスン電子です。2位はソニーと韓国LGエレクトロニクスが並びました。東南アジアでは中国・海信集団(ハイセンス)製も人気が高くなっています。技術者たちの調整力で画質が決まったブラウン管テレビのころは、日本メーカーが世界を席巻し、新興国が追いつくまでに何十年もかかりました。しかし、デジタル化で映像処理は半導体が担うようになり、技術の波及は速足になりました。薄型テレビは今や、パネルや周辺部品を買って組み立てれば高画質な製品を作れる「超・汎用品」(電機大手首脳)に変質しました。安く作れる企業が世界各地で中間層をいち早く取り込み、高コストの日本勢を打ち負かしています。

日本企業の中にも、アジアの中間層開拓を本格化する事例が出始めました。パナソニックは2009年10月、インドネシアで150万ルピア(約1万5000円)の冷蔵庫を売り出しました。大卒初任給の約2万円で買える価格設定がみそです。従来製品に比べて部品数を約2割削減する一方、野菜室のスペースは約2倍にしました。「果物や野菜を朝一番で買って、冷蔵庫に入れて食べる」「水も井戸水をくみ上げてペットボトルに入れ、冷蔵庫に入れる」という生活習慣に合わせ、冷やすための大きなスペースを作ったといいます。単に仕様を落とすのではなく、現地の市場を調べ尽くした上での戦術といえます。パナソニックは、人口2億3000万人のインドネシアを「中間層開拓の先行事例」と位置付けており、シェアを現在の10%から2012年に20%へ倍増させる目標です。

事業の集約も、日本企業の競争力を復活させるキーワードです。韓国では1997年の通貨危機をきっかけに、政府が主要産業の集約化を進めました。半導体は3社から2社に、鉄道車両は3社から1社に、という具合です。この結果、日本よりも国内市場規模が小さいにもかかわらず、韓国企業は1社あたりの自国市場規模が大きくなっています。乗用車の場合、日本では年間400万~500万台の新車市場を大手6社が奪い合うのに対し、韓国では現代・起亜グループ1社が102万台の市場を握るため、1社あたりの市場規模は日本の1・5倍程度です。同様に、鉄鋼でも1・5倍、携帯電話端末では2・2倍の市場を韓国企業は持っています。サムスン電子の成長の背景には、国内市場での消耗戦を避け、海外市場の獲得に向けた投資戦略を迅速に実行できたことがあります。

日本の産業界には「国内企業同士の競争が日本の成長を支えている」との声が根強くあります。しかし、同一の事業に多くの企業がひしめいている現状は、低収益体質を生む原因にもなっています。世界市場で勝負をかける企業こそ、再編による効率化への取り組みを忘れてはならないのです。


戸川利郎

参考:https://www.youkudownload.com/319.html
posted by 戸川利郎 at 13:13